エレメントにこだわる時計づくり
坂井:
企業のデザインセンターって、閉じているから「これ以上、打つ手がない」と中にいる人たちが思ってしまうところがあると思います。
深澤:
企業のデザインセンターは効率よくモノを作っていくことを考えていますから、時計のような職人芸になっている製品の場合は、逆に裏目に出てしまうことも今回感じました。

「フォント」からやりなおし
深澤:
時計の文字盤に使われている文字のフォントがあるのですが、コンピューターが発達してくると、普通は横並べになっているフォントを、そのままコンピューターで丸く並べてしまう、ということが起こってきてしまいました。昔は丸く並べた文字のバランスでフォントを判断していました。つまり、斜めに配列する文字は、斜めに見たときに一番バランスが良い形にデザインされていたのです。
でも、コンピューターでポンっと丸く置いたほうが楽だから、フォントのデザインについて誰も疑問に思わなくなってしまっていました。それを、今回は全部やりなおして、全部丸く並べなおした時に見て、どう見えるか、と泥臭くやってみたんです。
それをやらないと、Standardという名前をつけても、上っ面で、荒削りなものしか出来なくなってしまいます。結局、こういった細かなものを詰めることで深みが出てきました。
坂井:
確かに、テキストを書くように横に並べられたフォントと、時計盤の円周上に並べられたフォントでは、間の設計が全く違いますからね。
深澤:
今回はやっぱり、フォントの部分からやりなおしましょう、と調べ直してレイアウトしなおしていますが、それが、非常に良いものにつながりました。工業デザインとしては、かなりレベルが高いものになったと思います。
時計は、厚みとか輝きとか全体のバランスといったエレメント(要素)が複合して良さになるので、簡単には味わいが出ないのです。一般的な工業デザイナーが時計のデザインを簡単に出来ない理由は、時計が「ナマ」っぽくなってしまうからなのです。時計は長い経験がないと、全体が落ち着かないものになってしまいます。
坂井:
僕も時計のデザインに関わることがあるのですが、不思議なことに、最後はプロの時計デザイナーに整理してもらわないと「時計」になりません。アイデアは出せるのですが、時計のデザインには独自の「文法」がありますね。

セイコーのアイコンになる「ものづくり」へ
深澤:
セイコーは「グランドセイコー」のような、日本人のカルチャーやマインドに合ったもので成功しています。イノベーティブだけれども非常に保守的なマーケット層をしっかりと押さえているところがあります。そういった時計は価格帯も高いので、「スタンダード」では、もうちょっと広い、若者層にも買えるように、ということも考えたりしています。
気持ちとしては、セイコーの中で安定したアイコンとなるようなものをつくり、それによってセイコー全体のデザインをけん引するようなプロジェクトになればいい、と思っています。






